脱毛症とは
発毛がまばらあるいは完全にない状態を脱毛症といいます。
脱毛症の種類には、
- 円形脱毛症
- 壮年性脱毛症(男性型・女性型脱毛症)
- その他の脱毛症
があります。
円形脱毛症とは
円形脱毛症は、頭皮に一部の脱毛状態が生じる皮膚疾患です。特徴的な円形や楕円形の脱毛領域が現れます。
脱毛症の中で最も発症率が高く、脱毛した面積が広く、脱毛してから時間が経つほど治療が難しくなります。治療は年齢や症状に応じて適切なものを行います。
円形脱毛症は一般的には身体に害を及ぼすものではありませんが、それがもたらす外観の変化は自己意識や自尊心に影響を与える可能性があります。
円形脱毛症の症状
毛が円形に抜け落ち、その進行に伴って毛は斑点状に失われていきます。症状が重症化すると、頭髪だけでなく、まつ毛や眉毛、髭など全身の毛髪が抜け落ちることもあります。
多くの場合、自覚症状はほとんどありませんが、脱毛が始まる前に違和感や軽い痒みを感じることもあります。脱毛した部位には瘢痕などは形成されません。
円形脱毛症の原因
円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には明らかにされていませんが、自己免疫疾患と関連していると考えています。これは、体の免疫システムが誤って健康な細胞を攻撃し、この場合は毛髪を生成する毛母細胞を攻撃することを指します。
そのほかにも、ストレスや遺伝も影響を与えると考えられています。
円形脱毛症の治療
治療法は個々の患者さんの年齢や症状によって異なりますが、一般的にはステロイド外用、局所注射、点滴などが行われます。
ステロイドによる治療
ステロイド外用薬
数個までの円形脱毛症にはステロイド外用療法が行われます。ステロイドは、皮膚の炎症を抑制する作用があり、しばしば湿疹治療に使用されます。毛包の周囲に炎症細胞が集まる円形脱毛症に対しても効果的です。
ただし、長期間同一部位に使用すると、皮膚の細かい血管の拡張や皮膚の菲薄化などの副作用が見られることがあるため、症状が安定した段階で使用を中止することをお勧めします。
ステロイド局所注射
病勢が強い場合、頭部全体の1/4程度までの成人症例ではステロイド局所注射が勧められます。
ステロイド点滴療法
頭部全体の1/4以上の成人例では、発症から6ヶ月以内であればステロイド点滴療法が有効とされます。
ステロイド内服療法
ニキビ、肥満、糖尿病、胃潰瘍、骨粗鬆症などの副作用が問題になるため、使用期間は限定的で、休薬後の再発率が高いことが問題となります。
光線療法(エキシマライト治療)
限局型では、紫外線療法が有効であり、週に1~2回程度のエキシマライト照射が行われます。光線療法は副作用がほぼなく、多くの皮膚疾患に効果的です。
バリシチニブ(オルミエント®)内服
経口のJAK阻害薬であり、頭部全体の概ね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない場合は適応があり、近隣の総合病院に紹介させていただいています。
その他、抗ヒスタミン薬、セファランチン内服、塩化カプロニウム(フロジン®)外用などが併用されます。
治療の経過
少数の脱毛斑の場合、多くは1年以内に回復することが多いです。
頭部全体や頭部以外に脱毛斑が汎発するタイプは回復率が低いとされています。
男性型脱毛症/AGA
男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)は、日本人男性の約30%に発症すると言われており、年齢とともに発症頻度が高くなる特徴があります。この疾患では、前頭部や頭頂部の頭髪が薄くなり、細く短くなります。進行すると、毛が見られなくなることもあります。
この病態の発症には、遺伝的要因と男性ホルモンが関与しています。一般的に男性ホルモンは骨や筋肉の発達を促進し、ひげや胸毛などの毛を濃くする方向に働きますが、前頭部や頭頂部などの特定の毛包では、男性ホルモン(テストステロン)が5α-還元酵素の働きによってより活性の高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。DHTは受容体に結合し、毛の成長期を短縮して薄毛の原因となります。
治療には、フィナステリド(プロペシア®)、デュタステリド(ザガーロ®)などの内服が有効です。これらの薬は、テストステロンをDHTへ変換する5α-還元酵素の働きを阻害することで効果を発揮します。ただし、効果は可逆的であり、内服を中止すると再発する可能性があります。市販のミノキシジル(リアップ®)外用薬も有効で、毛母細胞の増殖、発毛促進、休止期毛包の活性化などにより発毛作用を示します。
(参考)男性ホルモンは、アンドロゲン(androgen)とも呼ばれるステロイド・ホルモンで、その中にはテストステロンのほか、ジヒドロテストステロン(DHT)、デヒドロエピアンドロストロン(DHEA)、アンドロステロン、アンドロステンジオン(androstenedione)、エピアンドロステロンなどがあります。
女性型脱毛症
女性にも男性型脱毛症と同じように特定のパターンをもった薄毛の状態が生じえます。しかし、男性と異なり、前髪が残り、その少し奥から頭頂にかけて薄毛となるパターンとなることが多いとされています。
また、男性ホルモンの影響が明らかである男性型脱毛症と異なり、女性型脱毛症では男性ホルモンの影響に関して明確なデータはなく、女性ホルモンの状態など様々な理由により生じている場合が多いと考えられています。
これらの理由から、どちらもある「パターン」を呈する病気として、一緒に語られることが多いものの、男性型脱毛症と女性型脱毛症は区別して取り扱われています。
鑑別疾患として、慢性休止期脱毛、膠原病や慢性甲状腺炎などの全身性疾患に伴う脱毛、貧血、急激なダイエット、その他の消耗性疾患などに伴う脱毛、治療としてのホルモン補充療法や薬剤による脱毛 などを除外することが大切です。
女性型脱毛症の治療に最も勧められる薬剤は、国内で市販されている1% ミノキシジル(女性用リアップ)の外用剤です。
ミノキシジルは毛乳頭細胞に働きかけることで毛の成長を促す効果があります。行ってもよい治療としてアデノシン、カルプロニウム塩化物の外用などがあります。
なお、男性型脱毛症の内服治療薬として勧められている5-α還元酵素阻害剤であるフィナステリドとデュタステリドに関しては、有効性が確立されておらず、また妊娠の際の副作用の問題などから行うべきではありません。
その他の脱毛症
慢性休止期脱毛、膠原病や慢性甲状腺炎などの全身性疾患に伴う脱毛、貧血、急激なダイエット、その他の消耗性疾患などに伴う脱毛、薬剤による脱毛などがあります。