アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、炎症を引き起こす物質が皮膚に入り、かゆみの強い慢性的な湿疹が長い間続く病気です。かゆみが強く、増悪と寛解を繰り返すのが特徴です。
アトピー性皮膚炎では、皮膚の”バリア機能”(外界のさまざまな刺激、乾燥などから体の内部を保護する機能)が低下していることや皮膚に炎症があることが分かっています。
また、かゆみを感じる神経が皮膚の表面まで伸びてきて、かゆみを感じやすい状態となっており、掻くことによりさらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ってしまいます。
アトピー性皮膚炎の原因
原因の一つとして、アレルギー体質(アトピー素因)があげられます。家族にアレルギー体質の人がいると、子どももアトピー性皮膚炎になりやすいといわれています。そのアレルゲンには、ダニやほこり、細菌、食べ物などがあります。
バリア機能が低下によって、外からアレルゲンなどの刺激が入りやすくなっています。これらが免疫細胞と結びつくことで、炎症を引き起こし、かゆみにつながります。
アトピー性皮膚炎の症状
強いかゆみの湿疹に悩まされるアトピーは、発症する年齢によって症状が異なります。
乳児期2歳未満
アトピー性皮膚炎は、早ければ生後2か月で発症します。乳幼児期は皮膚の機能はまだ未熟で、石鹸や細菌などの攻撃に弱く、簡単に炎症を起こします。
原因は食べ物が多く、よだれや食べ物で汚れやすい口の周りが荒れてしまうことが多いです。そのほかにも、頭や顔、耳の付け根が切れてしまうこともあります。
乳幼児は、食物アレルギーを併発していることも多く、卵、牛乳、小麦などの摂取によって、皮膚症状が悪化しがちです。注意しましょう。
また医師に相談せずに、自己判断でアレルゲンとされる食物を除去してしまうのも好ましくありません。将来的にアレルギーのリスクを上げてしまう場合もあるため、食物除去は必ず、医師の指導を受けるようにしてください。
幼児期、学童期/2〜12歳
幼少年期以降は、皮脂を出す機能が低下しており、乾燥肌状態になります。首や脇、ひじやひざの裏側、手首足首、腕や背中などにも広がり、全身がかさついて乾燥します。プールなどで乾燥し、水いぼやとびひの症状に進展することもあります。
思春期/13歳以降
症状が出やすいのはこれまでと同様に、顔や首、脇、ひじやひざ、手首足首です。思春期に差し掛かるとホルモンバランスの影響でニキビが増え、湿疹が悪化しやすくなります。
成人期
従来、アトピー性皮膚炎は、乳幼児期に多く発症するものです。そのほとんどは、成長とと自然に治癒していきます。しかし、1〜2割の人は、成人になっても症状が続く傾向があります。
50歳代になって突然発症した方や、就職などのストレスを契機にぶり返したりするケースも少なくありません。このような疾患を「成人型アトピー性皮膚炎」といい、最近は、増加傾向にあるといわれています。
成人型アトピー性皮膚炎は、さまざまな原因が重なり合って、発症、悪化、再発していますが、とくにストレスが深く関係していることも多いです。
アトピー性皮膚炎の検査・治療
アトピー性皮膚炎の検査
アトピー性皮膚炎に特有の血液検査として、アトピー性皮膚炎の重症度を評価するために、TARCまたはSCCA2を測定します。 特異的IgE抗体検査を行うことにより、ダニやカビ、ペットなど、どのような悪化要因が関わっているかを検討します。
アトピー性皮膚炎の治療
血液検査等の結果から、アトピーと診断されたら、まずは薬物療法によって、アトピーのサイクルを断ち切っていきます。
【アトピーの炎症が起こる→痒くなる→かく、引っ掻く→皮膚が傷つく】
アトピーが長期化してしまう要因となるのは、寝ているときなどに無意識のうちにかいたり引っ掻いたりしてしまい、皮膚を傷つけてしまうことです。かいたら悪化するとわかっていても、なかなか止めることができません。
延々と続くかゆみをそのまま放置すると、出血化膿を起こして痛みを伴うことも少なくありません。まずは皮膚の炎症と痒みを抑えることから始めます。
主に使用されるのは、ステロイドの塗り薬です。正しく使うことで、安全かつ効果的な成果をだすことができます。
しかし、塗る量が不十分だったり、自己判断で使用を中断してしまうと、逆に炎症を長引かせてしまい、アトピーを治らない病気にしてしまいます。
主な治療薬
1)ステロイド外用剤
アトピー性皮膚炎治療の基本となる薬剤であり、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021でもエビデンスレベルAで推奨されています。病変の性状、部位によって強さや剤型を使い分け、適切な量を適切な回数塗布して皮疹を寛解させることが重要です。その後は、週に2回程度の外用で安定した状態を維持できるようプロアクティブ療法を継続していきます。
ステロイド外用剤は即効性があり、皮膚炎やかゆみを強力に抑制します。しかし、アトピー性皮膚炎ではアレルゲンに対する特異的IgE抗体を持つことが多く、皮膚からアレルゲンが侵入すると再び炎症反応はおこります。皮膚からのアレルゲン侵入を阻止するためには、皮膚バリア機能を維持することが重要で、プロアクティブ療法を継続することが重要です。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
2)タクロリムス(プロトピック®軟膏)
炎症性T細胞のシグナル伝達系を抑制することで、皮膚炎を抑える薬剤です。ステロイドより分子量が大きく、正常な皮膚からは吸収されにくいです。
ステロイドで皮疹をある程度抑えてから、顔面やバリア機能の低下した部位の皮膚炎を長期間寛解維持するのに有効です。ステロイドと異なり抑制する細胞の選択制が高いため、皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用が出現しにくいです。
3)デルゴシチニブ(コレクチム®軟膏)
皮膚における種々の炎症細胞のシグナル伝達に重要なヤヌスキナーゼ(JAK1,2,3、Tyk2)を阻害し(汎JAK阻害)、JAK/STAT経路を遮断することにより皮膚炎やかゆみを抑制します。サイトカインによるフィラグリン発現低下を抑制し、バリア機能低下を抑制します。
4)ジファミラスト(モイゼルト®軟膏)
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤の外用薬です。PDE4を選択的に阻害することで炎症性サイトカインなどの化学伝達物質の産生を抑制し抗炎症作用を発揮します。
PDE4と呼ばれる酵素は、cAMPという物質をAMPに分解する役割があります。アトピー性皮膚炎では細胞内のcAMPの濃度が低下していることがわかっており、cAMPの量が減ると体の中で炎症を引き起こすサイトカインが過剰につくられるため炎症が悪化します。
モイゼルト軟膏を外用するとPDE4を阻害しcAMPの分解を抑えることで濃度が低下しなくなり、炎症をおさえることができます。
5)抗ヒスタミン薬(飲み薬)
アトピー性皮膚炎はかゆみがQOLを低下させ、また掻くことにより皮膚バリア機能を低下させ、さらなる皮膚炎を引き起こすという悪循環に陥りやすい(かゆみの悪循環)です。このため、かゆみのコントロールは重要です。
抗ヒスタミン薬のみでは皮膚炎を治すことは困難ですが、ステロイドや他の外用剤と併用して治療することで、早期に寛解維持することができます。
6)デュピルマブ(デュピクセント®皮下注)
アトピー性皮膚炎における2型炎症ではインターロイキン4、13のシグナルが重要ですが、デュピクセント®はこれらの受容体に結合してシグナル伝達を抑制することで、皮膚炎を抑えます。通常6ヶ月以上のしっかりとしたステロイド外用剤などによる治療でも難治な患者に適応があります。最近、生後6か月以上の小児にも適応が追加されました。成人では2週間に1回、小児では体重に応じて4週間に1回皮下注する薬剤で、クリニックあるいは自宅で自己注射することもできます。
7)紫外線療法
当院ではセラビームを用いて、ナローバンドUVB波のなかでも308nmをピークとする高輝度のエキシマライトを数分間、かゆみがひどい部分に週1~2回程度照射することにより、かゆみを抑制します。
その他
皮疹が重症で難治の場合には、経口のJAK阻害薬であるバリシチニブ(オルミエント®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、アブロシチニブ(サイバインコ®)やかゆみに関係するIL-31を抑える注射薬であるネモリズマブ(ミチーガ®)などの新規薬剤による治療が有効な場合があります。
これらによる治療が必要な場合は、近隣の総合病院に紹介させていただいています。
アトピー性皮膚炎の予防とセルフケア
アレルギー性皮膚炎の発症を予防するためには、検査で判明したアレルゲンや肌を刺激するリスクファクター危険因子をできる限り除去することが大切です。そして、毎日のスキンケアを徹底し、肌を良い状態に整えましょう。
日常生活では、肌に良いことを実践する
肌に直接触れる衣類選びはとても重要です。服は綿や絹などの吸水性の高い製品を使用し、化学繊維やウールなどの肌を刺激する素材でできた衣類の着用は避けましょう。
石鹸、シャンプーなど、体を洗うものは弱酸性を使用します。洗浄力の強いものは、汚れだけではなく皮脂まで洗い流してしまい、乾燥肌のリスクが高まります。注意しましょう。
入浴はぬるめのお湯に浸かるようにするだけで、肌への負担を減らせます。熱いお湯は肌を刺激して、痒み等の症状を悪化させます。入浴後はすぐに肌の保湿を行いましょう。入浴直後から、肌は乾燥していきます。なるべく早めに保湿することを心がけましょう。
アトピーの症状改善は、長期戦です。日常生活に、無理な制限をかけてしまうと、息が詰まってしまい長くは続きません。
自分にあったストレス解消方法も積極的に実践し、アトピーの改善に役立てましょう。