蕁麻疹(じんましん)とは
皮膚トラブルで多い疾患の一つがじんましんです。蕁麻疹の発症は、4〜5人に1人の割合で経験するといわれていて、身近な皮膚疾患といえます。
蕁麻疹は、皮膚に赤く盛り上がった膨疹(ぼうしん)とよばれる症状が特徴的です。とても強い痒みを伴います。膨疹のサイズはさまざまで、体のあちこちに突然現れます。体全体に広がるほど、大きなものもあります。
しかし、蕁麻疹のほとんどは1日以内に跡形もなく消えます。もし、虫刺されのような赤いかゆみを伴うような症状があった場合、見た目の特徴が同じで見分けがつきにくくても、数時間以内に消失するようであれば蕁麻疹の可能性が高いです。
蕁麻疹の一つに、唇や目が腫れる血管浮腫がみられることもあります。血管浮腫は、2〜3日程度で消失することが多いです。
蕁麻疹と湿疹の違い
湿疹とは、皮膚の表層(表皮・真皮上層)に起こる炎症の総称です。皮膚炎とも呼ばれます。赤みやブツブツ、落屑といった、痒みを伴う皮膚症状がでることが多いです。時間の経過とともに、ただれの症状がみられたり、かさぶたができたりすることがあります。
蕁麻疹は全身の皮膚に一過性の膨疹(紅斑をともなう限局性の浮腫)が出現し、通常は24時間以内に跡を残さず消失し出没を繰り返すのに対して、湿疹は数日間続くことも多く、長引くと色素沈着が起こりなかなか取れなくなってしまうこともあります。
蕁麻疹の原因
急性蕁麻疹、特に小児では、上気道炎などの一過性の感染症に伴うものが多いです。その場合は感染症に続いてじんましんも消失することが多いです。
慢性蕁麻疹は発症から6週間以上経過したものを指し、特定の刺激により誘発される刺激誘発型の蕁麻疹と原因不明の特発性蕁麻疹に大きく分けられます。慢性蕁麻疹の多くは原因不明の特発性蕁麻疹であり、約70%を占めます。ストレス、IgE、またはその受容体に対する抗体などが背景、悪化因子いわれます。
刺激誘発型の蕁麻疹には、物理性蕁麻疹(約10%)、アレルギー性の蕁麻疹(約5%)、コリン性蕁麻疹(約6%)などがあります。
物理性蕁麻疹は、皮膚表面の種々の刺激により誘発され、機械性蕁麻疹,寒冷蕁麻疹,日光蕁麻疹,温熱蕁 麻疹,遅延性圧蕁麻疹,水蕁麻疹などがあります。
アレルギー性の蕁麻疹は、特定の食物、薬品、植物、昆虫の毒素などに対する特異的IgEを介した即時型アレルギー反応であり、原因を特定するには血液検査で血清IgEを測定する方法や、皮膚テストなどがあります。
コリン性蕁麻疹は、入浴,運動,精神的緊張など,発汗ないし発汗を促す刺激が加わった時に生じます。小児から30 歳代前半までの成人に好発し,皮疹は粟粒大から小豆大までの膨疹ないし紅斑で、数分から 2 時間以内に消褪することが多いです。眼 瞼,口唇に血管性浮腫を伴うこともあります。
その他、食物依存性運動誘発アナフィラキシー、非アレルギー性の蕁麻疹、アスピリン蕁麻疹、接触蕁麻疹などがあります。
ストレスや過労、体調不良、月経なども原因となる場合があります。
膠原病など、何らかの基礎疾患が原因で発症する蕁麻疹もあり、精査により基礎疾患が見つかるケースもあります。
蕁麻疹の受診の目安
蕁麻疹の多くは、発症から数時間後には何事もなかったように消失します。症状が軽ければ、あまり心配はいりません。しかし、重篤になるとのどの粘膜の腫れや呼吸が苦しくなる等のアナフィラキシー症状を生じる場合もあり、そのような場合は早めに医療機関を受診してください。
蕁麻疹の検査・対策
蕁麻疹の治療をするには、まず蕁麻疹の種類を特定することが大切です。原因は不明なことも多いですが、特定できれば、その原因を遠ざけることが一番の治療法になります。
原因を調べる検査には、血液検査、皮膚検査、誘発検査、負荷検査、皮膚の一部を採取して検査する皮膚生検があります。これらの方法によって、悪化因子や誘発因子なども探っていきます。
血液検査では、IgE抗体検査による方法があります。IgEとはアレルゲンに対して反応して、肥満細胞などからヒスタミンを放出させる因子です。採血を行い、原因となる物質に対する反応が高くなるかを調べます。甲殻類がアレルゲンの場合は「甲殻類に対してIgEが高い」という結果が出ます。
アレルギー物質の例
- 食品添加物
- 食物
→ 卵、牛乳、そば、甲殻類(かに・えび)、魚類 - 薬剤
→アスピリン、抗生剤、その他 - ダニやホコリ、花粉、汗
蕁麻疹の治療
蕁麻疹が起きる仕組みは大きくアレルギー性のものと、非アレルギー性のものに分けることができます。治療法も異なります。
治療の基本は、抗ヒスタミン剤
抗ヒスタミン剤は抗アレルギー剤とも言われ、花粉症やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など多くのアレルギー疾患の治療に使われています。この薬は、体の中でアレルギー症状を引き起こすヒスタミンをブロックすることで、アレルギーの出現を抑えます。
蕁麻疹の治療の基本は、この抗ヒスタミン剤です。どのような種類の蕁麻疹に対してもまず使用される治療薬です。多くの方は、この抗ヒスタミン剤のみで改善します。
蕁麻疹が出現した時は、自己判断で治療をせずに皮膚科医に相談することが大切です。夜間、休日などすぐに病院を受診できない場合、薬剤師に相談の上、一時的に市販の抗ヒスタミン剤を内服することは考慮しても良いと思います。
原因が明らかな蕁麻疹は、原因を避けることが大切
蕁麻疹は、原因が不明なものと原因が明らかなものに分けられます。原因が不明な蕁麻疹を「特発性蕁麻疹」といい、多くの方がこれに当てはまります。
蕁麻疹が出て受診された患者さんに、「原因は何なんでしょうか?」とよく質問されます。症状がひどい人ほど、原因は何なのかを知りたいと思うでしょう。しかし、多くの蕁麻疹の原因はわからず、原因が特定できる蕁麻疹は全体の2-3割程度とも言われています。
原因が特定できなくても、薬(抗ヒスタミン剤)を飲めば改善するため、「原因追求」が必要な蕁麻疹は限られると考えます。しかし、原因が特定できる蕁麻疹はあります。原因が特定できれば、だらだらと薬を飲み続ける必要はなく、原因を避けることで蕁麻疹は出なくなります。
原因の特定には、「蕁麻疹が出現する前にどのようなことをしていたか」についての問診が大切です。
以下に主な蕁麻疹の原因を挙げます。慢性的に蕁麻疹が出現する方は、以下の要因で当てはまるものはないかチェックしてみましょう。
蕁麻疹の主な原因
- 食物
- 薬剤
- 物理的刺激(下着の痕など)
- 日光
- 寒冷刺激など
例えば「エビ」を食べた後に蕁麻疹が出るなどのエピソードがある場合は、「エビ」が原因として疑われます。
疑われた原因を特定するには、皮膚検査(プリックテスト)や採血検査などが必要です。蕁麻疹が出現した時は、抗ヒスタミン剤で症状を抑えるとともに、長期的には原因を避けることで蕁麻疹が出現しないようにすることが大切です。
普通の治療で治らない蕁麻疹はどうするか
蕁麻疹になったら、まずは抗ヒスタミン剤を開始します。薬の効果には個人差 があり,また治療効果が現れるのに 3~4 日程度、時には週単位の時間がかかることがあります。すぐに効果が現れないからといって薬を変更するのではなく、1 つの抗ヒスタミン薬の効果は 1~2 週間継続した後に判断します。
通常用量で効果が不十分であった場合は,倍量まで投与量を増やすことで効果が得られることがあります。現在、抗ヒスタミン剤はいくつも種類があります。1つの抗ヒスタミン剤で効果がなくても、別の薬に変えることで、効果が得られる場合があるため、ある抗ヒスタミン剤で改善が得られなかった場合は、別の種類に変更することがあります。
普通の治療で改善しない場合は、まず抗ヒスタミン剤の増量、変更、追加を行います。それでも改善しない場合は、補助的な役割を持つ薬剤(胃潰瘍などの治療で使うH2拮抗薬(ガスターなど)、抗ロイコトリエン薬、トラネキサム酸など)を追加します。
それでも改善しない強い症状の場合は、ステロイドの全身投与や免疫抑制剤の使用が検討されます。ステロイドの全身投与や免疫抑制剤が必要なほどの強い症状の方は、一部に限られています。しかし、全身に広範囲に蕁麻疹が出現しかゆみがとても強いときなど、一時的にステロイドの内服を併用する場合はあります。
蕁麻疹の最新の治療
これまで説明してきたようないくつかの治療を行っても改善しない難治性蕁麻疹の場合、今までは現状の使用できる薬の組み合わせを変えたり、増量したりなどで対応していました。しかし、2017年3月からこれまで難治性の喘息にのみ使用可能であったゾレアという薬が、新たに難治性の慢性蕁麻疹にも使用が可能になりました。
ゾレアは、一般名をオマリズマブといい、アレルギーを引きおこすIgEをブロックすることで、アレルギー症状を抑制する薬です。海外や日本において、治療抵抗性の慢性蕁麻疹患者の大多数において有効性が確認され、副作用も少ないことから2017年3月から使用可能となりました。この薬は、難治な慢性蕁麻疹の患者さんに限って使用されており、当院でも患者さんにご案内しております。
蕁麻疹の予防、対処法
蕁麻疹を引き起こす原因はとても多く、必ずしも特定の要因によって発症するとは限りません。患者さんの体質(内部的な要因 )と、それを刺激してしまう環境(外部的な要因)が組み合わさって症状が現れますので、いずれかの要因を避けることで、蕁麻疹発症を予防することができます。
アレルギー物質が特定している場合は、なるべくそれらを避けるようにします。特定の食品や刺激等、繰り返し蕁麻疹がでるようなものは注意しましょう。
蕁麻疹が出て痒みが強い場合は、患部を冷やしたり、かゆみ止め薬を使用することで症状は緩和できます。いずれの場合でも、なるべく早めに受診してください。