痒疹とは
痒疹とは強いかゆみを伴うポツポツとした皮膚のもりあがり(丘疹、結節)がいくつもできる病気です。 通常、発症から数週間以上持続するものを指します。非常にかゆいので夜も眠れないことが多く、見た目上も大きな悩みになることが多くあります。
アトピー性皮膚炎でも痒疹型の皮疹ができることがありますが、通常は紅斑、乾燥など他の皮疹を伴うことが多いです。また、痒疹の方でもダニなどにアレルギーを持つ場合がありますが、アトピー性皮膚炎よりもステロイド外用剤や抗ヒスタミン薬などの薬が効きにくいことが多いです。
治りにくく、強いかゆみを伴う症状が続いている場合は「痒疹」かもしれないと思うことが必要です。「痒疹」は通常の湿疹よりも治療が難しく、工夫が必要です。強い痒みが生じ、治りにくい痒疹もあるため、患者さんだけでなく、治したいけど治せない私たち皮膚科医にとっても苦痛の強い病気です。
共に辛抱強く治療を続け、そして、いままでの治療への反応性や副作用に注意しながら、患者さんに合った治療法を一緒に探していけたらと思います。
痒疹の種類・症状
痒疹には大きく分けて、結節性痒疹と多形慢性痒疹の2種類があります。
診断は比較的簡単だが、治しにくい結節性痒疹
直径5 mmから1 cm程度の小結節、結節(大きめのブツブツ)が、くっつかずに多発します。症状としてはわかりやすく、一目みれば診断できることが多い病気です。アトピー性皮膚炎に生じる痒疹型の皮疹は結節性痒疹に似ています。
どうして発症するかはわかっていませんが、アトピー性皮膚炎に合併することもあるので、両者には共通した要素があると思われます。
正確な診断が難しい多形慢性痒疹
蕁麻疹(じんましん)のような浮腫性紅斑(すこし盛り上がった、赤い発疹)が、腰部、側腹部、側胸部、下腹部などを中心に出現します。
蕁麻疹は数時間から1日で消えますが、多形慢性痒疹の皮疹は短時間では消えません。このような紅斑に、結節性痒疹のような「大きめのブツブツ」が混ざってくることがあり、ブツブツが連なることもあります。
診察になれないと診断が難しい場合も多く、治療も難しいため、いろんな医療機関を渡り歩いている患者さんもよく見かけます。10年、20年と同じ症状が続いていたという患者さんも少なくありません。
赤くて、痒くて、治らない、こんな場合は、多形慢性痒疹を疑います。高齢者に多くみられるので、加齢が影響していると思われますが、どうして発症するかはわかっていません。
痒疹と似ている病気・間違えやすい病気
- アトピー性皮膚炎
- アミロイド苔癬
- 水疱性類天疱瘡
- 疥癬
痒疹の原因
原因は今のところはっきりとわかっていません。虫刺されがきっかけで長い間引っ掻き続けてしまうことにより痒疹を発症することもあります。糖尿病、腎不全、肝疾患、痛風、血液疾患、妊娠、偏食、その他 悪性腫瘍がかくれていることもあります。また鼻・のどや歯に慢性の細菌感染が原因のこともあります。アトピー性皮膚炎でも痒疹型の皮疹を生じることがあります。しかし詳しい検査をしてもなにも見つからないこともよくあります。
基礎疾患に関連すると考えられる痒疹
- 虫刺されによる痒疹
- 症候性痒疹(種々の疾患に関連して生じる痒疹)
- 腎性痒疹
- 肝性痒疹
- 糖尿病性痒疹
- 悪性リンパ腫 白血病に伴う痒疹
- 悪性腫瘍による痒疹
- 金属アレルギーによる痒疹
- 薬剤性痒疹
- 心因性疾患による痒疹
- 妊娠性痒疹
- アトピー性皮膚炎にみられる痒疹
- 湿疹病変に続発して生じる痒疹
以上のような基礎疾患に関連して発症する場合があります。
痒疹の検査診断
痒疹の診断は、皮膚症状をもとになされます。似たような皮膚病変が生じる病気もあるため、KOH法と呼ばれる検査でカビの有無を調べたり、疥癬でないかどうか調べたり、皮膚病変を採取して生検したりすることもあります。
また痒疹は内臓系疾患に関連して現れることもあるため、これらの有無を調べることもあります。たとえば、糖尿病であればHbA1cや血糖、腎臓や肝臓の病気ではアルブミンや特定の酵素などの値を血液検査で評価します。
他にも鉄欠乏性貧血の可能性があればヘモグロビンやフェリチン、HIV感染の有無を検査することもあります。
痒疹の治療
虫刺の回避、掻破の防止、基礎疾患の治療が大切です。
お薬は、炎症を抑えるステロイド外用剤と、かゆみを抑える抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤の内服を中心とします。
アトピー性皮膚炎に伴う痒疹の場合は、アトピー性皮膚炎のコントロールをよくすることが必要です。
ただし、治りの悪い痒疹になると、一般的なステロイド外用とかゆみ止め内服だけではなかなか反応しないことが多いので、以下のように段階的に治療していきます。
1ステロイド外用剤(very strong, strongest)+抗アレルギー剤内服
※ 結節型ではドレッシング材による密閉療法が有効な場合が多い
2マクロライド系抗菌薬内服+step 1
3紫外線療法 あるいは ステロイドホルモン(内服、筋肉注射、局所注射)+step 1
4シクロスポリン少量内服+step 1
5デュピルマブ(デュピクセント®皮下注)2週間に1回+step 1
デュピルマブとは
デュピルマブ(デュピクセント®皮下注)は、既存の治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎、喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎などで使用されている薬ですが、結節性痒疹においても2023年6月から使用が認められるようになりました。
これらの疾患における2型炎症ではインターロイキン4、13のシグナルが重要ですが、デュピクセント®はこれらの受容体に結合してシグナル伝達を抑制することで、皮膚炎を抑えます。2週間に1回皮下注する薬剤で、クリニックあるいは自宅で自己注射することもできます。
その他 液体窒素冷凍凝固療法や基礎疾患により他の治療を追加する場合もあります。慢性腎疾患や肝疾患ではナルフラフィン塩酸塩(レミッチ®)が有効です。
効果がない場合や症状がひどい時には、患者さんのお体に合わせて段階的に治療を検討していきます。かゆみが強く、苦痛の強い病気ですので、できるだけ早く効果がでるように、短期間で治療方針を見直していきます。
治療効果と長期経過の見通し
痒疹の特徴として、治りにくい場合もあると記載しましたが、適切な治療をすることで強いかゆみが無くなるケースはあります。しかし、短期間でかゆみは減っても、薬を減らす、あるいは、中止すると症状が再燃する場合もあります。治療の副作用を最小限に抑えながら、かゆみを軽減する治療を進めていきます。